四方山話ある親方の呟き
四方山話ある親方の呟き
拾伍話
北の富士さんに学ぶ大相撲の美学
先日、相撲界の内外において長く貢献された北の富士さんが天寿を全うされましたが、力士としては優勝10回の横綱をはり、親方としては2横綱を育て九重黄金時代を築き、解説者としはNHKを通じて日本全国津々浦々と大相撲の魅力を発信された大恩人です。
しかし北の富士さんは急激に代わり行く大相撲の変化にいつも警鐘を鳴らしていました。
個人が優先され、不祥事が起こると部屋制度のあり方さえ批判される中で、服装の乱れ、生活の乱れ、土俵の所作や精神性の乱れは、親方衆が弟子にしつこいくらい指導する根競べなんだからと。
大変大変って言っても戦争時代の方がもっと大変だったんだからな。
泥だらけになって一生懸命稽古して、華やかな本場所の土俵に立って、死力を尽くして勝負したなら、淡々と礼をして引き上げて行く。
昔本で読んだんだけど、俺たちのずっと前の時代は、稽古が終わって飯の時間になると若い衆が部屋からオヒツ抱えて国技館に行ったそうなんだ。関取衆はそこで温かい飯を喰うんだけど、若い衆はそのオヒツに飯を入れてもらって、荒縄に縛ったたくあんをもらって部屋に帰るみたいなんだな。
でもお相撲さんそのまま持ち帰って食べるんじゃなくて、同じ三軒長屋の住人に少しずつ配って残った飯を喰ったみたいなんだよ。
俺はその話を思い出す度にぐっとくるんだよ。
そういうのが大相撲の美学じゃないかなって。