四方山話
四方山話
ある親方の呟き11
教習所
さて晴れて力士の仲間入りを果たした訳ですが、初めての千秋楽を終えてつかの間の休みですが一週間後には、相撲教習所というところに必ず半年間通わなければなりません。
相撲教習所は国技館の敷地内にあり、実技と学科を学びます。
朝7時に点呼が始まり、まずは準備運動がてら国技館を3周ランニング。その後、3面土俵を使って、四股、すり足、相撲基本動作を担当親方と指導員と呼ばれ関取崩れのベテラン力士と呼ばれる鬼軍曹に徹底的に教えこまれます。もちろんズルをしたりしたら指導員の容赦ない『愛のムチ』が飛んで来ては、余りに気が緩むと全体責任で『腕立て伏せ』となりますが今はメッキリなくなりました。
相撲経験者があるないにしろ、卒業する頃には、考えなくても体が動いて覚えてるくらいになるもんです。そうやって1学期を終えまた本場所を迎え次の2学期になると実践形式の稽古が本格化してきます。
すでに序ノ口としてデビューし勝ち負けもすんでだいたい力関係が見えて来ます。3面土俵は、A班B班C班に別れて申し会い稽古の始まりです。
A班はいわばエリート集団。全国クラスの好成績力士同士の申し会いは待ったなしの緊張感のある稽古です。若貴曙はこの頃よりお互いライバル意識をして引退するまで相撲ブームを牽引してきました。だいたい関取になる力士はA班から巣だってます。
C班となるといわゆる落ちこぼれ。まだまだ相撲の『す』の字も知らないペーパードライバー。頭でも当たれないじゃれあい稽古ですね。でも『ひょうたんから駒』その後化けて出世した力士も少なからずいます。
B班はその間でしょうか。でもB班の力士はA班に入りたいもんで、休憩時間にもなると指導員を稽古台に仕立てたりして汗を流し、それぞれ一生懸命稽古するのは変わりません。そうして競争力を養いながら相撲の厳しさを教えていきます。
さて一通り実技が終わると風呂と掃除をしてちゃんこタイムです。朝早くから空腹で動いて、食べ盛りの新弟子にとってのちゃんこは楽しみのひとつです。教習生のちゃんこはみんな一緒で地下食堂のいわゆる社食で食べます。おかずは日替わりで同じですが、ご飯と味噌汁はおかわり自由。特にカレーは人気で今は『国技館カレー』として商品化されて協会の名物となってます。ですから、親方から新弟子まで誰もが食べた懐かしいお袋の味は案外カレーかもしれませんね。
昼食が終わると座学になります。内容は一般常識と歴史と単純な物ですが何せ満腹に強烈な睡魔が襲ってきます。ここでも指導員が目を光らせてピシャリ。
やっと終わって最後は『相撲錬成歌』という校歌をみんなで歌って解散です。
さて三学期になると髪の毛もザンバラになりそれなりの力士に近付いてますが、逆に回りを見渡すと来ない力士がちらほら見えます。
そうです。色んな理由により脱落して辞める力士が多いのもこの半年間です。一瞬さみしさを感じながら、ここは弱肉強食の世界。ライバルが1人消えただけの事だと言い聞かせて稽古に励むのでした。
さてそろそろ卒業に近付いてきました。
何はともあれ生き残ったライバルは同期の桜です。そして卒業式にはご褒美が待ってます。
毎日休まず稽古した者に贈られる『精勤賞』これは100人中15人から20人。そして1日も休まず稽古をして、態度や座学で特に優秀と認められた力士に贈られる『優等賞』これは100人中1人か2人にしか贈られない賞で、副賞は稽古まわしですが獲得した力士は自慢の賞になります。
毎日通いながらも午前中は部屋を解放されてお互いの近況報告をしながら、同じ年代で語り同じちゃんこを食べ稽古した仲間もそれぞれの相撲人生を歩んで行きます。
さて次は巡業の今と昔についてお話しましょう。