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大相撲だより

平成28年3月場所だより

大相撲春場所は3月13日にエディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)で幕を開けます。待ちに待った10年ぶりの日本出身力士による優勝。近年にない明るい話題に包まれ、浪速の春は華やいだ雰囲気となりそうです。

最大の注目は初場所を14勝1敗で初優勝した大関琴奨菊です。低い当たりからの出足とがぶり寄りが冴え渡り、勢いは最後まで止まりませんでした。この取り口を持続できれば初の綱とりは展望が広がりますが、鍵となるのは安定感です。琴奨菊は大関在位26場所で2桁勝利は8度しかなく、かど番は5度。相手の横への動きにもろい欠点もあり、独特の緊張感の中でどこまで対応できるか。いずれにせよ2場所連続優勝すれば最高位の座は確実。2003年初場所の貴乃花を最後に途絶えていた和製横綱復活とともに、1998年夏場所の3代目若乃花以来の日本人新横綱となれば、回復した大相撲人気は沸騰するでしょう。

琴奨菊にあっさりと賜杯を譲った格好となった3横綱は意地の見せどころです。特に白鵬は3場所も優勝から遠ざかっており、終盤戦での気の抜けたような取り口も心配です。初日2日前の11日が31歳の誕生日。さすがの第一人者にも陰りが出てきたのでしょうか。日馬富士はけがを抱えながら奮闘しています。欲を言えば初場所の琴奨菊戦では、稀勢の里戦で見せる闘争心で向かってほしかったものです。鶴竜は昨年春場所を全休しただけに、今年こそは最後まで優勝争いに加わることがせめてもの責務でしょう。

琴奨菊に先を越された2人の日本人大関ですが、ファンが最も奮起を望んでいるのが稀勢の里でしょう。これまで何度も優勝に迫りながら、あと一歩で逃しました。刺激を受けるなら今しかありません。大阪府寝屋川市出身でご当地場所の豪栄道は2度目のかど番。右手首痛の影響で先場所は4勝に終わり、今場所も厳しい闘いが続きます。途中休場明けで初のかど番を迎える照ノ富士も左膝と右肩の故障がどこまで回復しているか。強引な相撲は禁物です。

関脇には個性豊かなベテランがそろいました。東には突き、押しの嘉風。場所中に34歳となりますが、けれん味のない真っ向勝負は若手のお手本です。先場所は千秋楽まで優勝争いを演じて12勝の豊ノ島は返り咲いて西。上位陣には気の抜けない存在です。栃煌山、宝富士の両小結に加え、幕内上位には高安や安美錦や隠岐の海、大阪府交野市出身の勢らが控え、春場所の代名詞でもある「荒れる春場所」の予感は十分。目が離せない15日間となるでしょう。

2004年から毎場所続けさせていただいた「だより」ですが、筆者の都合により今場所限りで休載とさせていただきます。始めた当初は大相撲人気が下降気味で、不祥事が続発した頃は底をつきました。5年前の春場所中止という悲しい出来事もありました。それが2012年1月に再登板した故北の湖理事長(元横綱)をはじめとした親方や力士の尽力により、場所ごとに空席が埋まっていきました。

その前理事長は人気回復を見届けるように天国へと旅立ち、今後の行方は後進に委ねられました。大相撲の醍醐味は土俵を通じて力士と観客が「あうんの呼吸」で興奮を生み出すところです。世界に誇れる日本の国技が大相撲。その歴史に千秋楽はありません。

平成28年1月場所だより

平成28年の大相撲の始まりを告げる初場所は1月10日、東京・両国国技館で幕を開けます。この場所で外国勢が賜杯を抱けば、日本出身力士は平成18年初場所の大関栃東を最後に10年間も優勝から遠ざかることになります。モンゴル勢の隆盛は続きますが、この節目の数字は日本勢が押されっぱなしであることの象徴とも言えます。待ったをかける救世主は現れないものでしょうか―。

それでもやはり優勝争いは横綱白鵬が中心となります。先場所で2年ぶりの優勝を果たした日馬富士は際どい相撲を何番も制しての栄冠だけに、安定感に欠けます。鶴竜も下位力士へ取りこぼす弱さが抜けません。そうなると1番手は白鵬しかいません。

休場明けだった先場所の白鵬は数字だけを見れば12勝と合格点ですが、内容は全く伴っていません。栃煌山戦の猫だましは論外。あの奇策は挑む側が王者をかく乱する戦法であり、第一人者が格下に繰り出せば相手を小ばかにしたとしか映りません。敬意が著しく欠けているのです。12連勝からモンゴル勢に喫した3連敗には稀勢の里戦のような真剣味が全く感じられず、1年最後の土俵に水を差しました。それでもそんな白鵬が第一人者であることが現状で、優勝ラインもこの横綱次第で上下するでしょう。

毎年のように期待される大関稀勢の里は、ついに7月には30歳となります。幸いにこの力士は心も体も若いので老け込む気配はありませんが、周囲はいつまでも待ってくれません。先述した「救世主」は稀勢の里しかいないのです。

左膝に故障を抱える大関照ノ富士は勢いが小休止しました。九州場所は左脚で踏ん張れない状態で嘉風の猛攻をしのいで勝つなど潜在能力の高さを示しました。ただ終盤の白鵬、鶴竜戦は相手の気力のなさ、ふがいなさで白星が転がり込んでやっとの勝ち越し。体を通りにすることが先決です。琴奨菊と豪栄道の両大関に優勝は期待できませんが、せめて3横綱を一泡吹かせる相撲を取ることが責務です。

三役以下では33歳の嘉風が新関脇となります。どんな相手に対しても常に全力を尽くす姿を見て、若手は何かを感じないのでしょうか。ベテランの大奮闘に日本人力士全員が続けば、土俵は間違いなく活性化します。関脇栃煌山も白鵬の猫だましに目をつぶっている場合ではありません。小結に返り咲いた勢は一生懸命な姿が共感を呼び、結果にも現れています。悲願の横綱戦初勝利に期待しましょう。

幕内上位に戻ってきた業師の安美錦、荒法師の松鳳山は嘉風と並んで後半戦注目の力士です。幕内2場所目の御嶽海、けがに苦しむ遠藤はどんな相撲を取るか。そして新入幕には中卒の入門前から大器と騒がれた21歳の輝、元学生横綱で24歳の正代が登場。輝は193cmの体格に話題性もあり、正代は本格派の四つ相撲です。新時代の主役に名乗り出るほどの気概で新風を吹かせてほしいものです。

九州場所13日目の夜に急逝した北の湖理事長(元横綱)は「土俵の充実」を常に叫び続け、最後の最後まで土俵を見届けました。命を懸けて人気回復を呼び込んだ昭和の大横綱にして大理事長に報いるような相撲の連続を望みます。

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