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四方山話

四方山話

ある親方の呟き14

今昔の稽古について

稽古の仕方もずいぶん変わりました。30年前は、まだまだ努力と根性の精神的な部分で、ちょっと気を抜くと往復ビンタやお尻に『愛のむち』が飛んできますから真剣でした。緊張感の中で稽古するからこそ身に付く。その鉄則は不変ですが、今が真剣ではないかというとそうではなくそれは相撲界だけではなくスポーツ全般の常識が変わったんです。

力士数も減れば稽古相手も困ります。稽古中は水は飲まない。稽古の前に食事はしないやプロテインで補給する等、調整と言う名のアスリートという言葉が流行る始末です。

では力士はアスリートでしょうか?力士は人間を越えた超人であって欲しいです。
太古の昔よりまわしひとつで勝ち負けをつけて神様に捧げる神事、軍配が反ったら動物的に日頃の稽古成果を存分に発揮し、勝負がついたら人間に戻りお互いを称え会う武道の精神、それは科学的に測れない限界を越えた日頃の稽古からなる神秘的な力だと思います。

昔からお相撲さんの1日は朝稽古してちゃんこ食べて昼寝と決まってます。関取が夕方、冬になると外套を着て、雪駄をチャチャと鳴らして颯爽と夜の街に消えていくのを横目に、いずれ自分もああなりたいと鼓舞したもんです。
しかし最近は10番相撲を取ったとか、15番取ったら良く稽古したとかおおよそ考えられない稽古量です。確かに稽古の質は大切です。しかし武道における稽古とは実戦方式の反復です。

成長期の15歳から本格的な稽古をさせたらバラバラになってしまいます。やはり20歳から25歳が大事です。これこそ鉄は熱いうちに打てでガンガン番数こなして身体に相撲を叩き込みます。だいたいは30番位になるとヘトヘトになります。身体の汗も止まりまさに心臓から汗が出る状態です。でもその苦しみを越えた時に本当の人間が持つ本能的な動きが生まれて無駄な動きがなくなり不思議と疲れなくなり40番50番となっていきます。

そういう稽古を一週間に一回でも続けたら後はしめたもんです。26歳から28歳は何もしなくても力が出る年齢ですからね。そうして30歳くらいになると引退を意識します。いやもっと稽古したらもっと長く相撲が取れるじゃないかと批判されそうですが、人間ほどほどが丁度良い。それ以上の努力をすれば三役大関になれるかもしれません。

でも関取になるだけでも凄い事なんですよ。努力するのも素質があって選ばれた人が横綱になるんですからね。だいたい稽古なんて好きな人は誰もいないんですからね。

一番大事な事は辞める時に振り返って後悔してなかったか自問自答する事です。それは序二段だろうが三段目だろうが同じです。勝っても負けても一喜一憂しないで淡々として下がっていく。悔しかったら稽古したら良いんですよ。そんなもんじゃないですかね。

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