平成27年11月場所だより
1年納めの大相撲九州場所は11月8日から福岡国際センターで始まります。横綱になって初めて休場した横綱白鵬、2場所連続休場明けの横綱日馬富士の再起はなるか。高いレベルでの優勝なら綱とりの話題が浮上する大関照ノ富士の躍進はいかに…。人気回復がピークに達した平成27年を締めくくるにふさわしい場所となりそうです。
白鵬は秋場所で初日から2連敗すると、左膝痛を訴えて途中休場。10月下旬の秋巡業は後半から参加し、九州場所の出場に向けて調整のピッチを上げています。横綱になって8年以上も皆勤してきただけに、今回の休場は心身両面でどのように影響するか。出るにせよ休むにせよ、白鵬の今後を大きく占う九州場所となるでしょう。
日馬富士は正念場を迎えました。休場の原因となった左肘痛だけでなく、細身の体にはけがが増えてきました。2年も賜杯から遠ざかる上に2場所連続休場。さすがに出場するであろう今場所も不成績に終われば、そろそろ進退を問う声が浮上します。
大関照ノ富士は秋場所終盤で右膝を負傷しながら、12勝で優勝同点に持っていきました。ただ綱とりに向けて12勝はレベルが低く、優勝も逃しています。場所前から機運は高まりませんが、15戦全勝に近い数字を残せば一気に横綱昇進の可能性もあり得ます。23歳の若き大関の豪快な勝ちっぷりもムードを左右しそうです。夢の成就は右膝の回復度に尽きます。
横綱9場所目で初の賜杯を抱いた鶴竜は真価の問われる土俵となります。突然訪れた1人横綱の重責に耐える一方、関脇栃煌山戦と大関稀勢の里戦と分の悪い相手には横綱らしからぬ立ち合いの変化。目先の白星と引き替えに批判や落胆が集中し、2度目の優勝は完全に色あせました。3横綱がそろい踏みすれば、今場所こそが意地の見せどころ。もう横綱初優勝を果たしたのだから、結果を気にせず堂々とぶつかってほしいです。
日本人3大関で孤軍奮闘の気配が漂う稀勢の里は、毎場所のように悲願の初優勝が視界に入っています。あと1、2勝が足りずに涙をのんでいるだけに、強引な攻めを封印して取りこぼしを減らすことが夢への近道。角界全体と根強いファンの後押しに何とか応えてほしいものです。秋場所11勝の琴奨菊ですが、優勝争いを演じるだけの安定感はありません。福岡県出身だけにご当地場所を少しでも盛り上げてほしいものです。ふがいない土俵が続く豪栄道は2度目のかど番。大関の座を守る意識を捨て、陥落も辞さない覚悟で動き続けることが現状打開につながります。
栃煌山、妙義龍の実力派関脇はどこまで上位陣を苦しめるか。まずは2桁勝利で大関候補としてのアピールも望まれます。台風の目は3場所連続2桁勝利で小結に復帰し33歳の嘉風。2横綱2大関撃破で殊勲、技能賞に輝いた先場所の勢いを持続すれば、連日の波乱も期待されます。
幕内上位に復帰する逸ノ城、遠藤、勢は存在感を取り戻せるか。幕下付け出しデビューからわずか4場所で新入幕の御嶽海には、ざんばら髪での旋風に注目が集まります。生きのいい押し相撲は幕内でも十分に通用するでしょう。
不入りが常態化した九州場所ですが、昨年は満員御礼7日間と盛り返しつつあります。博多の土俵は1年間の総決算。熱戦とファンの熱気で今年の大相撲を締めくくってほしいものです。
平成27年7月場所だより
大相撲名古屋場所は7月12日から愛知県体育館で開かれます。3場所連続の15日間満員御礼と人気回復の波に乗るかのように、新大関照ノ富士の誕生という新しい話題がもたらされました。
早くから大器と見られた照ノ富士ですが、最近2場所での躍進ぶりには目を見張らされます。春場所の13勝に続き、夏場所は12勝と成績を一つ下げながら初優勝。将来性と勝ちっぷりの良さで一気に大関を射止めました。横綱日馬富士や巧者の安美錦、新小結宝富士ら擁して勢いに乗る伊勢ケ浜部屋の充実した稽古内容で鍛えられ、これからまだまだ強くなりそうです。今場所も新大関ながら堂々の優勝候補。2場所連続で賜杯を抱けば、次の場所は早くも綱とりとなります。前述した同部屋の力士とは対戦しない有利さにも恵まれ、モンゴル出身の23歳は1年以内に横綱昇進を果たす可能性は極めて高いでしょう。
迎え撃つのは横綱白鵬です。夏場所は大関豪栄道戦で逆転負けしたあたりから心に乱れが生じ、まさかの11勝止まり。千秋楽は照ノ富士との優勝決定戦で第一人者の貫禄を見せつけるはずが、本割で手負いの日馬富士に粘ることなく敗れました。モンゴル出身の後輩にあっさりと優勝を許したふがいなさを払拭すべく、8年前に新横綱として登場した名古屋場所こそは最高位の権威を示すべきです。
左肩痛で2場所連続全休の横綱鶴竜は出場の意向ですが、土俵際の逆転も持ち味だけに相撲勘がどこまで戻っているか。まずは勝ち越し、2桁勝利と段階を踏んでクリアすることが先決です。日馬富士は夏場所後に右肘を手術。1年半ぶりの優勝に向け、まずは平幕相手の取りこぼしを減らさなければいけません。
照ノ富士に追いつかれた日本人3大関はますます奮起が望まれます。最も期待される稀勢の里は夏場所で白鵬を撃破して11勝。外国勢と互角に渡り合える唯一の日本人力士だけに、ファンが待ち望む悲願の初優勝を果たしてほしいものです。勝ち越しながらも左肩骨折で休場明けの豪栄道、5度目のかど番を迎える琴奨菊はせめて優勝争いを面白くさせる働きが求められます。
三役以下は力のある力士がそろいました。関脇に復帰した逸ノ城は名古屋入り前から出稽古を敢行するなど、精力的に汗を流しています。同じく再関脇の栃煌山も一発のある実力者。新小結の宝富士、関脇から小結にとどまった妙義龍、平幕上位の栃ノ心や佐田の海、高安、勢など上位陣にとって息の抜けない存在ばかりで、序盤戦から好取組が続きそうです。
先場所は左膝の負傷を押して強行出場しながら6勝と大健闘の遠藤は、今場所も予断を許しません。ただ黙々と必死に土俵を務め上げる姿は、彼の人気をさらに高めるでしょう。幕内前半戦の大きな見どころです。十両にも輝、阿武咲、阿炎、新十両の御嶽海など日本人の逸材が台頭。名古屋の猛暑を忘れさせるほどの熱戦が期待されます。
平成27年5月場所だより
大相撲夏場所は5月10日に東京・両国国技館で始まります。人気回復が本格化し、今年は初場所から2場所連続で15日間満員御礼が継続中。今場所も大盛況が予想され、土俵の盛り上がりが比例すれば申し分ありません。
自身2度目で史上最多タイの7連覇を目指す横綱白鵬の独走を誰が待ったをかけるのかが、今場所の焦点です。3月に30歳と白鵬は往年の強さは薄れつつも、うまさや勝負勘は健在です。「負けない相撲」に磨きがかかり、第一人者の座が揺らぐ気配はまだまだ感じられません。
そんな白鵬を脅かす存在が現れました。新関脇の春場所で13勝を挙げ、白鵬を力強く寄り切った照ノ富士です。恵まれた体格にパワー、懐の深さと柔らかさを備え、防御の強さも魅力的。物怖じしない性格は大物の雰囲気たっぷりで、今場所も13勝以上を挙げれば一気に大関昇進の声が出てくるでしょう。
照ノ富士と一緒に鳥取城北高に相撲留学した逸ノ城も小結となり、2場所ぶりの三役復帰です。棒立ちの立ち合いが課題として残りますが、潜在能力はトップクラス。照ノ富士に負けじと大関昇進レースを繰り広げれば、さらに面白い展開となるでしょう。
白鵬以外の2横綱は苦しい土俵が続きます。日馬富士は実に8場所も賜杯から遠ざかり、まだ昇進後1度も優勝していない鶴竜は左肩痛による休場明け。ともに終盤戦での影の薄さは嘆かわしく、意地を示してほしいものです。
モンゴル勢にすっかり席巻された日本人大関は、分厚い壁にどこまで割って入れるでしょうか。何だかんだ言っても期待を集める稀勢の里には、せめて千秋楽まで優勝争いに加わって夢を抱かせてもらいたいです。大阪府寝屋川市出身の豪栄道はご当地場所で8勝止まり。まずは昇進後初の2桁勝利がノルマとなります。白鵬や日馬富士がほとんど申し合いをせず、照ノ富士や逸ノ城がマイペース調整に終始した春巡業。最も番数をこなしたのが稀勢の里と豪栄道でした。地道な努力を継続した者が報われると身をもって示すためにも、この2大関には頑張ってほしいです。琴奨菊はけがが多いのが残念です。
関脇には妙義龍、小結には栃煌山と実力者が復帰。幕内上位には豊ノ島、安美錦、栃ノ心、宝富士と上位陣も油断できない力士がそろいました。左膝を負傷して春場所を途中休場した人気の遠藤の復帰は微妙な情勢です。幕内だけでなく、十両に楽しみな若手が続々と出てきました。18歳の阿武咲、20歳の輝、阿炎、21歳の大栄翔、23歳の天風。全員が日本人力士で将来は三役以上を狙える逸材ばかりです。体格や相撲ぶりも異なり、この顔ぶれが幕内上位に進出すれば、さらに熱気は高まるでしょう。この5人に今から目をつけて応援することも相撲観戦の楽しみだと思います。
平成27年3月場所だより
大相撲春場所は3月8日からボディメーカーコロシアム(大阪府立体育会館)で幕を開けます。昨年後半から一気に沸き起こった大相撲人気復活の勢いは高まるばかりで、近年まれに見る盛り上がりに包まれるでしょう。
初場所で大鵬を抜いて単独史上最多の優勝33回を達成した横綱白鵬ですが、場所直後の失言でせっかくの偉業に自ら大きく水を差しました。63連勝した全盛期の盤石ぶりとは違いますが、あらゆる展開に対応して攻防のある相撲を見せるのが最近の白鵬です。円熟期に差し掛かった時期での大記録。だからこそ力士として、人間として未熟と言われかねない審判部批判発言は残念でした。不安定な精神面と達成感で第一人者が崩れるようなことがあれば、「荒れる春場所」が本格化します。
場所が荒れれば優勝ラインも12、13勝あたりに下がり、多くの力士にチャンスが到来です。そこで期待されるのは大関稀勢の里。何年もファンの期待を裏切っている印象がありますが、白鵬を除く現在の上位陣では、日馬富士、鶴竜と遜色のない成績をキープ。あと1、2勝の上積みがあれば悲願の初優勝、約9年ぶりに日本出身力士が賜杯を抱く日が実現します。
白鵬以外の2横綱も意地の見せどころです。日馬富士は先場所11勝ながら相撲内容にスピードと気迫がよみがえってきました。鶴竜は横綱昇進後から5場所経過も賜杯はなし。ちょうど1年前に初優勝で昇進を決めた大阪の地で存在感を示せるでしょうか。
先場所はともにかど番を脱出の2大関には奮起が求められます。特に大阪府寝屋川市出身の豪栄道は昇進後3場所で8、5、8勝と超低空飛行。先場所も5勝7敗から辛くも勝ち越し、相撲がすっかり小さくなってしまいました。地元ファンの大歓声を受け、持ち前の思い切りの良さを取り戻してほしいものです。琴奨菊は一直線のがぶり寄りに全てを懸け、優勝戦線をかき回せるでしょうか。
三役以下は面白い顔ぶれです。東西はともに新関脇で東にモンゴル出身で23歳の大器、照ノ富士、西は実力者で美男力士、隠岐の海。モンゴル出身では珍しく突き、押し得意の玉鷲が新小結となり、出足の妙義龍も小結に戻ります。特に照ノ富士は懐が深くて力が強く、横綱、大関陣にとって脅威の存在です。
怪物の逸ノ城は初めて負け越した先場所からの巻き返しを期します。平幕に転落しますが、上位陣総当たりは変わりません。ファンにとっても好取組の連続で、どんな相撲を取るか楽しみです。そのほか、幕内上位には大物食いの高安、堅実な四つ相撲の宝富士、人気ナンバーワンの遠藤らが控え、大阪府交野市出身の勢は幕内下位での大勝ちを狙っています。役者がそろい、客席は満員―。浪速の街が華やいだ春を迎えそうです。
平成27年1月場所だより
2015年の始まりを告げる大相撲初場所は11日に東京・両国国技館で幕を開けます。横綱白鵬は11月の九州場所で大鵬に並ぶ史上最多の優勝32回を達成。今場所を制すれば、いよいよ前人未到の領域を極めます。今年は白鵬がこのまま走り続けるのか、それとも誰かが止めるのか。この1年を占う初場所です。
昨年の白鵬は4年ぶりの5場所制覇を遂げ、特に後半は寄りの威力が戻ってきました。日々欠かさぬ四股、すり足の成果です。1年半以上も全勝優勝がないように地力が落ちていますが、差を詰められない2番手以下のふがいなさも追い風となっています。白鵬以外の力士は13勝を挙げるのも困難なだけに、優勝回数はもう少し増えるでしょう。
横綱鶴竜は先場所、惜しくも優勝を逃しました。昇進4場所を経過して、まだ一度も賜杯を抱いていません。星を落とせない意識から多用する引き技、叩きで墓穴を掘る相撲が致命傷となっています。大関に上がった頃のように、右上手を引いての寄りに徹することが先決といえます。
日本人3大関は、2014年も優勝できませんでした。日本出身力士は2006年初場所の栃東を最後に途絶えています。ただ見通しは厳しいです。先場所5勝の豪栄道、6勝の琴奨菊はかど番で新年を迎え、優勝争いどころの話ではありません。頼みの綱は稀勢の里です。先場所は11勝とまずまずで内容も悪くありませんでした。逃げる鶴竜を怒濤の出足で押しまくった好勝負を見ると、どうしてもこの男に期待してしまいます。全勝同士の白鵬戦が実現すれば、大入りの館内は興奮のるつぼと化すでしょう。
そして注目は逸ノ城です。新関脇の先場所は8勝と勝ち越しましたが、内容に迫力を欠きました。特に白鵬戦は気迫が全く感じられず、新入幕の時に巻き起こったフィーバーは一気にしぼんだ感があります。とにかくここからが本当の勝負です。対戦相手の研究も進んでおり、初場所でこそ真価が問われます。
東西の小結には高安、栃煌山と3横綱を倒せる力士が戻りました。モンゴル出身の大器で22歳の照ノ富士、地力上昇中の宝富士、大阪府交野市出身の勢、膝の大けがからよみがえった栃ノ心も幕内上位。前売り券の出足はすさまじく、早くも15日間満員御礼確実との声が出ています。熱気に応える土俵の充実に期待したいものです。